小児歯科
お子様の健やかな成長を願うとき、私たちはその入り口である「お口の健康」がとても重要です。
東海林歯科が考える小児歯科は、単に「お子様の虫歯を治療する場所」ではありません。
私たちが目指すのは、お子様が成人してからも、そして生涯にわたって、ご自身の歯で美味しく食事をし、心からの笑顔で語り合い、歯で苦労することのない豊かな人生を送るための、揺るぎない「土台」を築く場所であることです。
そのためには虫歯の治療はもちろんのこと、「そもそも虫歯にならない」ための予防習慣を身につけ、お口の健全な発育を導き、そして何よりも「歯医者さんは怖くない、楽しい場所だ」と感じてもらうことが不可欠です。
武蔵小山で開院して約100年。
祖父の代から、この地域にお住まいの本当に多くのお子様たちの成長を、お口の健康を通して見守ってまいりました。昨日まで泣いていた子が、今日は笑顔で挨拶をしてくれる。その小さな成長の一つひとつが、私たちの大きな喜びであり、誇りです。
乳歯の健康はとても大切です
「乳歯はいずれ永久歯に生え変わるから、少しぐらい虫歯になっても大丈夫」
保護者の皆様の中には、もしかするとこのようにお考えの方がいらっしゃるかもしれません。しかし、それは将来のお口の健康を考える上で、非常に危険な誤解です。
乳歯は、単に「一時的に使う歯」ではありません。お子様の健やかな成長と、美しい永久歯の歯並びを導くために、数多くの重要な役割を担っているのです。
乳歯が果たす、5つの重要な役割
「噛む」ことによる顎の発育促進
乳歯でしっかりと食べ物を噛むこと。その刺激が、顎の骨の健全な発育を促します。顎が十分に発育しなければ、後に生えてくる永久歯が並ぶためのスペースが不足し、歯並びが乱れる大きな原因となります。
永久歯の「道しるべ」
乳歯の真下では、永久歯が少しずつ時間をかけて育っています。乳歯は、その永久歯が正しい位置を目指して生えてくるための、大切な道しるべの役割を果たしています。虫歯などで乳歯を本来の時期より早く失ってしまうと、永久歯は道を見失い、ずれた位置から生えてきてしまうことがあります。
正しい「発音」の補助
言葉を覚える幼児期において、特に前歯は「サ行」や「タ行」などの正しい発音を助ける重要な役割を担っています。
「顔の輪郭」の形成
健康な歯と顎は、お子様のお顔のバランスの取れた輪郭を形成する上でも欠かせない要素です。
永久歯の「質」の保護
乳歯の虫歯を放置して、根の先にまで膿が溜まってしまうと、その下で育っている永久歯の形成に悪影響を及ぼし、質の弱い、虫歯になりやすい永久歯になってしまうことがあります。
このように乳歯の健康は、永久歯の健康、美しい歯並び、そして全身の健やかな成長にまで、密接に関わっているのです。
お子様の歯を取り巻く虫歯のリスク
「大人と同じように歯磨きをしているのに、どうしてうちの子は虫歯になりやすいのだろう」
そうお感じになる保護者様も少なくないでしょう。
実は、お子様の歯は大人が思う以上に、虫歯菌に対して無防備な状態に置かれています。
乳歯が虫歯になりやすく、進行も速い理由
| 原因 | 詳細 |
|---|---|
| 歯の質が弱く、未熟であるため | 乳歯や生えたばかりの永久歯の表面(エナメル質)は、大人の歯に比べて柔らかく、厚みも半分程度しかありません。そのため、虫歯菌が作り出す酸に対する抵抗力が弱く、一度虫歯になるとあっという間に進行してしまいます。 |
| 糖分に触れる機会が多いため | おやつやジュース、スポーツドリンクなど、お子様の食生活には糖分に触れる機会が多くなりがちです。お口の中に糖分がある時間が長ければ長いほど、お口の中は酸性の状態が続き、歯が溶けやすい環境になります。 |
| 歯の形状が汚れが溜まりやすいため | 乳歯は永久歯に比べて丸みを帯びており、歯と歯の間に隙間が少ないため、汚れが溜まりやすくなっています。特に奥歯の溝は複雑で深いため、虫歯の温床となりやすい場所です。 |
| 歯磨きが上手にできないため | お子様がご自身一人で、お口の隅々まで完璧に歯を磨くことは非常に困難です。また、乳歯から永久歯へと生え変わる時期は歯の高さが不揃いになり、歯並びが一時的に凸凹になるため、さらに磨き残しが多くなります。 |
仕上げ磨きが大切
これらのリスクからお子様の歯を守るために、絶対に欠かせないのが保護者の皆様による「仕上げ磨き」です。
お子様が自分で歯磨きをする習慣を育てることはもちろん大切ですが、磨き残しをなくすための確認として、保護者様が必ず仕上げ磨きをしてあげてください。
一般的には、小学校中学年くらいまで、お子様がご自身で隅々まで磨けるようになるまでは、続けていただくことをお勧めします。どのような体勢で、どのように磨けばよいか、その具体的なコツも、当院で丁寧にご指導します。
「治す」のではなく、「ならない」ための予防
当院の小児歯科で力を入れているのは、虫歯になってしまった歯を「治す」ことよりも、そもそも虫歯に「ならない」ように、お口の環境を整え、歯そのものを強くすることです。
虫歯菌に負けない強い歯を作る「フッ素塗布」
フッ素は、歯の質を強化し、虫歯に対する抵抗力を高めるために、非常に有効な成分です。当院では、お子様の定期検診の際に、高濃度のフッ素を歯の表面に直接塗布する処置を行っています。
フッ素の3つの働き
- 歯の修復を助ける(再石灰化の促進)
- 歯の質を強くする(耐酸性の向上)
- 虫歯菌の働きを弱める(抗菌作用)
定期的に歯科医院で高濃度のフッ素塗布を行うことで、虫歯になりにくい、丈夫な歯を育てることができます。
奥歯の溝を虫歯から守る「シーラント」
生えたての永久歯(特に6歳頃に生えてくる6歳臼歯)は、噛む面の溝が非常に深く、複雑な形をしています。この溝は歯ブラシの毛先が届きにくく、お子様の虫歯の約9割が、この場所から発生するといわれています。
シーラントは、この虫歯になりやすい奥歯の溝を、あらかじめフッ素を含んだ樹脂で埋めてしまい、食べかすや細菌が入り込むのを防ぐ、極めて効果的な予防処置です。
シーラントの処置について
- 歯を削ることは一切なし
- 痛みも全く伴わない
- 歯の表面をきれいにし、お薬を塗って、樹脂を流し込み、光を当てて固めるだけで完了
健康な習慣を育む「食事・生活指導」
虫歯予防は、歯磨きだけで完結するものではありません。どのようなものを、どのように食べるかという食生活が、お口の健康に大きく影響します。
「だらだら食べ」や「だらだら飲み」は、お口の中が酸性になる時間を長くするため、虫歯がリスクとなります。おやつの時間や回数を決める、糖分の多い飲み物を控える、よく噛んで食べる習慣をつけるなど、ご家庭で実践できる具体的なアドバイスも、積極的に行っています。
「歯医者さん嫌い」にさせないために
私たち小児歯科に携わる者が、決してしてはならないこと。
それは、お子様の心に「歯医者さんは、痛くて怖い場所だ」という、消えることのない記憶を植え付けてしまうことです。
幼少期のトラウマは、大人になってからも歯科医院から足を遠ざける大きな原因となります。そして、それが結果的に、お口のトラブルを放置し、歯を失うという不幸な結果につながってしまうのです。
この負の連鎖を、未来を担うお子様たちの代で断ち切ること。
それこそが、私たちの重要な使命の一つであると、心に刻んでいます。
お子様と接する上で、大切にしていること
無理強いは、絶対にしません
お子様が、自らの意志でお口を開けてくれるようになるまで、私たちは根気強く待ちます。まずは診療台に座る練習から、次はお口を開ける練習から、とお子様一人ひとりのペースに合わせて、ゆっくりとステップアップしていきます。
一つひとつの行動を、言葉で伝えます
「お口の中を見る鏡だよ」「シューっと風さんをかけるね」「歯ブラシでバイキンさんをやっつけよう」など、これから何をするのか、どのような器具を使うのかを、お子様が理解できる言葉で、必ず説明します。先の見えない不安を取り除くことが、信頼関係の第一歩です。
できたら、たくさん褒めます
どんなに小さなことでも、「上手だね!」「すごいね!」と、心から褒めることを大切にしています。治療を乗り越えた達成感と、褒められた喜びは、お子様の自信となり、次への意欲につながります。
治療器具に、まず慣れてもらいます
いきなり治療を始めるのではなく、ミラーやバキューム(お水を吸う機械)などを、実際に手で触ってもらうなど、遊びの延長線上で、器具や環境に慣れてもらうための時間を設けています。
お子様の治療における「削らない虫歯治療」
大人の虫歯治療でご紹介した「エアアブレージョン」という方法は、歯を削る独特の「キーン」という音や振動がほとんどありません。そのため、歯科治療の音や感触に敏感なお子様の虫歯治療においても、恐怖心を軽減させるための有効な選択肢となる場合があります。
歯並びと噛み合わせの健全な発育を導く
小児歯科のもう一つの重要な役割は、お子様の顎の成長を正しく導き、永久歯が美しく並ぶための土台を整えることです。
小児矯正(咬合誘導)という考え方
大人が行う矯正治療が、すでに生え揃った永久歯を動かして「歯並びを整える」治療であるのに対し、お子様の時期に行う小児矯正は、顎の骨の成長を利用して、「永久歯が正しく生えるためのスペースを確保する」ことを目的とした「咬合誘導」という考え方に基づいています。
成長期にしかできないこのアプローチによって、顎の大きさと歯の大きさのアンバランスを改善し、将来的に歯を抜かずに本格的な矯正治療ができたり、あるいは本格矯正そのものが不要になったりする可能性を高めることができます。
注意して見てあげたい、お子様のお口の癖
指しゃぶり、口で呼吸する癖(口呼吸)、舌を前に出す癖、頬杖をつく癖など、何気ない日常の癖が、実は歯並びや顎の発育に深刻な悪影響を及ぼしていることがあります。
これらの「口腔習癖」を早期に発見し、改善のためのトレーニング(MFT:口腔筋機能療法)を行うことも、私たちの重要な役割です。
健やかな成長を、お口の健康から支えるパートナーとして
お子様のお口の健康を守るためには、ご家庭でのケアと、歯科医院でのプロフェッショナルケア、その両方が不可欠です。
「歯医者さんデビュー」は0歳から
「歯医者さんは、虫歯になってから行く場所」ではありません。
私たちは、「歯医者さんデビュー」は下の前歯が初めて顔を出す、生後6ヶ月頃からをお勧めしています。
もちろん、治療のためではありません。
まずは歯科医院の雰囲気に慣れること。そして、保護者の皆様に、正しい仕上げ磨きの方法や、離乳食に関するアドバイスをお伝えすること。
痛い思いをする前に「歯医者さんは、お口をきれいにしてもらって、気持ちのいい場所」という楽しい記憶を、お子様の心に刻んであげたいのです。
武蔵小山の皆様と共に、未来を育む
当院は開院してから約100年。
私たちがこの地域で育ったお子様がやがて親となり、そしてまた、そのお子様の手を引いてご来院くださるという、温かい世代の繋がりを見守らせていただいた時間でもあります。
お子様のお口に関する、どんな些細なことでも構いません。心配なこと、分からないことがあれば、どうぞ一人で悩まず、私たちにご相談ください。
お子様の健やかな成長を、お口の健康という側面から、保護者の皆様と二人三脚で支えていくこと。
それが、地域に根差す歯科医院としての、私たちの変わらぬ使命です。
