歯ぎしり予防
「朝、目覚めた時なんだか顎のあたりが重だるく、疲れている」
「理由がわからないけれど、慢性的な頭痛や肩こりに悩まされている」
「近年、冷たいものが歯にしみるようになってきた」
もし、このような症状に心当たりがおありでしたら、それはご自身が気づいていない睡眠中や日中の「歯ぎしり」や「食いしばり」が原因である可能性があります。
歯ぎしりや食いしばりは単に「音のうるさい癖」というだけではありません。
放置すれば皆様が大切にされている歯や、食事をするために不可欠な顎の関節、さらには全身の健康にまで深刻なダメージを静かに、しかし着実に与え続けてしまう歯科医師として決して見過ごすことのできない問題です。
多くの場合、無意識下で行われるこの習慣に対し当院では単に症状を緩和させる対症療法に留まらず、その背景にある「噛み合わせ」の問題や生活習慣にまで目を向け根本的な原因にアプローチすることを重視しています。
このページでは歯ぎしりの本当の恐ろしさと、その原因、そして大切な歯と身体を守るための当院の取り組みについて詳しくお話しさせていただきます。
「歯ぎしり」の正体
一般的に「歯ぎしり」というと睡眠中にギリギリと音を立てるもの、というイメージが強いかもしれません。
しかし、実際にはいくつかのタイプがあり音がしないためにご自身では全く気づいていないケースも非常に多いのです。
無意識下でかかる大きな力
まず知っていただきたいのは歯ぎしりや食いしばりの際に歯や顎にかかる力が、いかに強大かということです。
私たちが食事の際に食べ物を噛む力は通常、ご自身の体重よりも軽いものです。
しかし、睡眠中など無意識の状態での歯ぎしり・食いしばりではその何倍もの力がかかり時には50kgから100kg以上もの力が、一点の歯に集中することもあるといわれています。
これほど強大な力が毎晩のように、あるいは日中も持続的にかかり続けたとしたら歯や顎が悲鳴を上げてしまうのは、想像に難くないでしょう。
眠中に行われる「スリープ・ブラキシズム」
夜間の睡眠中に行われる歯ぎしりは大きく3つのタイプに分類されます。
| タイプ | 特徴 | 症状・影響 |
|---|---|---|
| グラインディング | 上下の歯を強い力でギリギリとこすり合わせる、最も一般的に知られているタイプの歯ぎしり | 特徴的な摩擦音が出るため、ご家族やパートナーに指摘されて初めて気づく方がほとんど。歯のすり減り(摩耗)が最も激しく進行 |
| クレンチング | 音を立てることなく、上下の歯をグーッと強く噛みしめるタイプの食いしばり | 「音が出ない」ため周囲に気づかれることもなく、ご自身での自覚も極めて困難。歯の破折や顎関節症、頭痛・肩こりなどの原因となりやすい |
| タッピング | 上下の歯をカチカチと小刻みに何度もぶつけ合うタイプ | グラインディングやクレンチングに比べて頻度は低いとされている |
日中の無意識な癖「TCH(歯列接触癖)」
近年、歯や顎の不調の原因として非常に注目されているのがこの「TCH(Tooth Contacting Habit)」です。
本来、私たちの上下の歯は会話や食事をするとき以外は、触れ合っておらず2〜3mm程度の隙間が空いているのが正常な状態です(これを安静空隙と呼びます)。
ところが、パソコン作業に集中している時、スマートフォンを見ている時、家事をしている時、緊張している時などに気づかないうちに上下の歯を「そっと」接触させ続けてしまう癖。これがTCHです。
クレンチングのような強い力ではありませんが、この持続的な弱い力が顎周りの筋肉を常に緊張させ疲労させます。
これが顎のだるさや痛み、顎関節症を引き起こす大きな引き金となるのです。
歯ぎしりが引き起こすお口と全身への深刻な影響
歯ぎしりや食いしばりを長期間放置するとお口の中だけでなく、全身にわたって様々なトラブルを引き起こす可能性があります。
歯そのものへの直接的なダメージ
歯の摩耗
歯の表面のエナメル質がすり減り象牙質が露出してしまいます。
これにより、歯が短くなったように見えたり噛み合わせが低くなったりします。
歯の破折(ひび・割れ)
「マイクロクラック」と呼ばれる目に見えない無数のひびが歯に入りそこから虫歯菌が侵入する原因となります。
強い力がかかると歯が欠けたり、時には歯の根まで真っ二つに割れてしまい抜歯せざるを得なくなることもあります。
知覚過敏
歯の表面が削れることで神経に刺激が伝わりやすくなり、冷たい水や風がしみるといった知覚過敏の症状が現れます。
歯を支える土台(歯周組織)へのダメージ
歯周病にかかっている方が歯ぎしりをすると病気の進行を著しく悪化させます。
歯周病によってすでに弱っている歯槽骨(歯を支える骨)に歯ぎしりによる過剰な力が繰り返し加わることで、骨の破壊が急速に進み歯のぐらつきが大きくなります。
歯科治療で入れた修復物へのダメージ
せっかく治療した歯も歯ぎしりの力によって台無しになってしまうことがあります。
詰め物・被せ物の破損・脱離
セラミックなどの精密な修復物であっても想定を超える力がかかれば、欠けたり、割れたり、外れたりする原因となります。
インプラントへの悪影響
インプラントは骨と強固に結合していますが、天然の歯のように噛む力を和らげる「歯根膜」というクッション組織がありません。
そのため、歯ぎしりによる力はインプラント体と周囲の骨に直接的なダメージを与え「インプラント周囲炎」や、インプラント体の緩み・破損といった深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。
顎関節や筋肉へのダメージ
顎関節症の発症・悪化
歯ぎしりは顎の関節に過剰な負担をかける顎関節症の大きな原因の一つです。
「口が開きにくい」「顎が痛む」「開閉時にカクカク、ジャリジャリと音が鳴る」といった症状は歯ぎしりが背景にあるかもしれません。
頭痛・肩こり・首のこり
噛むための筋肉(咬筋・側頭筋)は首や肩の筋肉と連動しています。
歯ぎしりによってこれらの筋肉が常に緊張状態にあるとその緊張が周囲に波及し、原因不明の慢性的な頭痛や肩こりを引き起こすのです。
なぜ歯ぎしりは起こるのか?
歯ぎしりの原因はまだ完全には解明されていませんが、一つの原因だけで起こるのではなくいくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
中枢性の要因(ストレスなど)
現在、有力な原因と考えられているのが精神的なストレスです。
日中の活動で感じた緊張や不安、怒りといったストレスを睡眠中に歯ぎしりという無意識の運動によって発散させようとする、一種の生理的な反応であるとされています。
末梢性の要因(噛み合わせの不調和)
噛み合わせのバランスが悪いことも歯ぎしりを誘発、あるいは増強させる一因となり得ます。
一箇所だけ高く当たる被せ物があったり歯並びが乱れていたりするとお口の中のその「違和感」を、無意識にすり潰して馴染ませようとして歯ぎしりが起こることがあります。
生活習慣などの要因
アルコールやニコチン、カフェインの過剰な摂取は睡眠の質を低下させ脳を興奮させることで、睡眠中の筋肉の異常な活動(歯ぎしり)を引き起こしやすくするといわれています。
東海林歯科の歯ぎしり治療アプローチ
当院では歯ぎしり・食いしばりに対してまず歯や顎を破壊的な力から守るための対症療法を行うと同時に、その背景にある根本的な原因を探りお口全体、ひいては全身の健康バランスを整えていくことを目指します。
第一の選択肢「マウスピース(ナイトガード)療法」
歯ぎしりから歯や顎を守るための基本的かつ効果的な治療法が、睡眠中に装着するオーダーメイドのマウスピース(ナイトガードやスプリントとも呼ばれます)です。
マウスピースの重要な役割
歯の保護
歯ぎしりの強大な力をマウスピースが受け止め歯がすり減ったり、割れたりするのを直接的に防ぐ、いわば「鎧」のような役割を果たします。
力の分散・緩和
歯と歯が直接当たるのを防ぎ歯ぎしりの力を顎全体に均等に分散させることで、特定の歯や顎関節にかかる負担を劇的に軽減します。
筋肉のリラックス
マウスピースを装着することで噛み合わせの高さがわずかに変わり、顎周りの筋肉の緊張が和らぎリラックスした状態に導く効果があります。
市販品との決定的な違い
スポーツ用品店やインターネットで販売されている市販のマウスピースは絶対に使用しないでください。
これらはご自身でお湯につけて軟化させて歯に合わせるタイプがほとんどですが、専門家による調整がなされていないためフィット感が悪く、逆に噛み合わせのバランスを崩してしまい症状を悪化させる危険性が極めて高いのです。
歯科医院で作製するマウスピースは患者様のお口の型を精密に採り、現在の噛み合わせに完全に適合するように歯科医師の監督のもと、歯科技工士が一つひとつ手作りする医療装置です。
当院では質の高い技工所との密な連携により、適合性が高く違和感の少ない高品質なマウスピースを作製しています。
根本原因を探る「噛み合わせの精密診断」
マウスピースは歯ぎしりの破壊的な力から歯を守るための有効な手段ですが、それはあくまで対症療法です。
なぜ、そもそも強い歯ぎしりが起こってしまうのか。
その背景に噛み合わせの不調和が強く疑われる場合には、より根本的な原因を探るための精密な診断を行います。
これはまさに当院が顎関節症治療などで長年培ってきた専門性の高い領域です。
必要に応じて顎の動きや噛む力のバランスをコンピューターで解析する「シロナソ解析システム」などを用い問題の根本原因を客観的に分析します。
その結果、不適合な詰め物や被せ物の調整が必要なのかあるいは、歯並びそのものを改善する矯正治療を検討すべきなのか患者様のお口全体の将来を見据えたより本質的な解決策をご提案します。
日中の癖を改善する「行動療法」
日中の無意識な食いしばり「TCH」に対してはお薬や装置だけでは改善が困難です。
重要なのは患者様ご自身が「自分は日中に無意識に歯をくっつけている癖がある」という事実に「気づく」ことです。
その「気づき」を促すために私たちは「リマインダー法」という行動療法をご指導しています。
- パソコンのモニター
- 洗面所の鏡
- スマートフォンの待ち受け画面
など、ご自身の目が頻繁にいく場所に「歯を離す」「力を抜く」と書いた付箋やシールを貼っておくのです。
それを見るたびにハッと我に返り、歯が接触していれば離し肩の力を抜く。
この繰り返しによって無意識の癖を、意識的に修正していく訓練です。
無意識の習慣から大切な歯と身体を守るために
歯ぎしりや食いしばりは多くの場合、ご自身ではコントロールできない無意識下での現象です。
しかし、それは決して諦めるしかない「癖」ではありません。
私たちは歯ぎしりを皆様の身体が発している「ストレス」や「不調」のサインであると捉えています。
そのサインを見逃さず真摯に耳を傾け、適切な対処をすること。
それが皆様の大切な歯と身体を、未来にわたって守るための第一歩です。
ご家族に歯ぎしりを指摘された方、原因不明の頭痛や肩こりに長年悩まされている方、朝起きた時の顎の疲れや違和感に心当たりのある方。
どんな些細なことでも構いません。
武蔵小山で約100年、地域の皆様の健康に寄り添ってきた当院へどうぞお気軽にご相談ください。
私たちがその隠れた不調の根本原因を探るお手伝いをします。
